【一人語り】作業ゲーの極意

 自慢だが、マリオカートWiiの世界ランキングに私の名前が載っている。しかもレインボーロードのタイムアタックである。世界歴代9位で、日本国内では3位だ。

 この記録を出すために、私は実に3年の月日をかけた。マリオカートWiiに初めて触れたときから数えるとその期間はさらに伸びる。

 だが今回はレインボーロードで世界ランキングに載るための方法を解説する記事ではない。注目するのはそこではなく、レインボーロードを3周するだけの行為を3年も続けたことである。
 それほど気にしたことはなかったが、よくよく考えてみるとこれは異常だ。一周50秒に満たないコースを3年間もずっと周回し続けて平気な顔をしていられるのは、もしかしたら何かのビョーキじゃないだろうか。

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作業ゲーばっかり

 つい最近も、部活動の仲間と雑談しながらひたすらグランツーリスモ6でタイムアタックをしていて、いつの間にか90周も走っていたことがあった。

 タイムを更新しても何の報酬もない。自分が満足するだけだ。しかもこのときは自己ベストを更新できなかった。部員の一人が半分ドン引きしていた。キショいですって。

 どうやらこのような単純作業を何時間も続けて平気な顔をしていられるのは普通じゃないらしい。

「グランツーリスモ 金稼ぎ」

 私がいわゆる作業ゲーに没頭することはこれが初めてではない。小学生の頃はよく、グランツーリスモで金稼ぎをしていた。グランツーリスモ5では、一回で700万クレジット獲得できるレースをひたすら周回し、5億クレジットまで稼ぎあげた。

 高校では一時期FGOにドはまりしていて、クエスト周回で1年半の期間を溶かした。ボックスイベントと呼ばれる期間限定のイベントがあって、クリアするともらえる引換券を集めてガチャを引き、アイテムを獲得することが目的のイベントだ。FGOは強化アイテムが集めにくいため、私はこのイベントを死にもの狂いで周回した。一回のイベントでおよそ1300回も同じクエストを周回したときもあったくらいだ。

 小説の執筆も作業ゲーの側面を持ち合わせているだろう。白と黒しかない画面に向かってキーボードを叩き続けて何万字もの文章を書くわけであるから、並みの忍耐力では到底できない。

もはや修行の領域

 少し前、私は越谷オサムの陽だまりの彼女を丸々一冊全部書き写した。全部書くということで小説のリズム感を自分の肌で覚えようという魂胆であった。

 大体一時間あたり6000字のペースで朝から夜まで書き続け、およそ26時間ですべて書き切った。ぶっ通しではなかったため実際には3日かかった。文字数にすると142078字であった。執筆と違ってただの写経であるため、ほとんど無心だった。

 バカなのか?
 友人は私に言った。
 ああ、バカだ。だが、それが楽しかったのも事実だ。

マリオカート世界8位

 マリオカートに関しては、そもそもは世界ランキングを狙ってはいなかった。自分のベストを更新していればよかった。

 まだWiiのネットワークサービスが生きていたときは、世界ランカーの走りに憧れていたくらいだ。今となっては彼らのタイムよりも私の方が速いのが感慨深い。

 本格的にタイムを狙うようになったのは、コントローラーを変えてからだ。

 それまではハンドルコントローラーで走っていたが、タイムを詰めていくにつれてフラフラする操作感が気に入らなくなった。そこで、ガチ勢が好んで使うゲームキューブコントローラーにしてみた。効果は絶大であった。慣れてからはタイムが劇的に向上し、国内ランキングトップ10まであと1秒のところまで迫った。

 こうなれば火が付くのは当然のことである。私は世界ランカーの走りを研究し、難易度の高い走行ルートを身に付け、ライン取りを改善し続けた。

 一時期は毎日のように昼夜タイムアタックをし続けていた。正午過ぎから始めて気づいたら日付を超えていたこともあった。

 世界8位のタイムを出したとき、1周目はあまり手ごたえがなかった。
 いつも通り走っていたら妙にラップタイムが速く、2周目も同様のタイムが出たところで急に全身が緊張した。最終ラップを完走したら自己ベストを更新できる予感と、ミスはできないという恐怖で手汗が噴きだし、手先のバランス感覚を失った。
 それでも染みついた動きでなんとかファンキーコングをゴールラインまで送り届け、そのタイムを見て、私は吠えた。圧倒的に速かった。そしてすぐにランキングを確認したところ、国内のランキングどころか世界のランキングに食い込んでいた。あのときの達成感は中々味わえるものではない。

 今では一人抜かれて世界9位になってしまったが、まだ私のタイムはランキングに残っている。再挑戦するのは世界ランキングから引きずり降ろされたときだろうか。いや、もうやりたくない。

上のリンクから現世界ランキングを確認できます。私がBonjinという名前で載っています。まだ9位を維持しています(2024/9/11時点)

結局のところは

 頭を空っぽにして手先を動かしてさえいられれば何でもいいのかもしれない。ふと思った。

 私は作業の成果よりも、行為自体を求めているのではないか。小説の写経なんてまさにそうだ。その頃は新作の構想が行き詰まっていたこともあって、何かしら「やってる感」が欲しかったのだ。淀みなくキーボードを叩いているだけで安心できるからだ。

 もっと言えば、考え事の多い毎日、つらいことから逃れるために作業ゲーをしているのかもしれない。忍耐力が強いのではなく、その逆ではないか。

 わかってしまった。つまり私は何かのビョーキというよりは、日常生活にストレスを感じているだけだ。何も特別なことはない。誰だって少しは精神的につらい思いをしている。逃れられるなら逃れたい。でも、完全に逃げることはできない。一つくらいその反動があってもいい。だから、そう簡単にビョーキなんて言ってはいけないのだ。

 人々が日常に娯楽を求めるのは、嫌な現実を忘れられるからだ。ゲームをする、買い物をする、ごちそうを食べる。何だっていい。私にとってはそれが単純な作業の繰り返しであった。ただそれだけだ。

 ストレスのない人生なんて人生ではない。娯楽が娯楽ではなくなってしまう。これからも私は作業ゲーを続けるのだろう。無意味な作業の連続。心の平穏はそこにある。

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