数多くのアニメを制作しているP.A WORKSですが、その処女作に当たるのがこの「true tears」です。
原作は同名のアドベンチャーゲームですが、物語は全くの別物です。
制作は2008年と、やや古くなってしまいましたが、未だに色褪せない魅力が詰まっています。
恋愛を描いたアニメでは最高傑作と言って良いかもしれません
この記事はそんなtrue tearsの魅力に迫っていきます。
※ネタバレが含まれます。苦手な方はブラウザバックしてください。
あらすじ
造り酒屋のひとり息子である仲上眞一郎。絵本作家に憧れる彼は、ある夜、天使の絵を描いていた。絵を描くことに没頭する彼の脳裏には、いつしか天使の鮮明なイメージが浮かぶ。その天使はふわりとした巻き毛の、あどけない少女だった。
TVアニメ「true tears」公式サイトより
翌日、学校の裏庭を通り抜けようとした眞一郎は、樹上から鼻歌が聞こえてくることに気づいた。顔を上げると、そこには赤い実を取っている少女がいた。彼女は、昨晩眞一郎がイメージした天使にそっくりだった…。
true tearsのここが面白い
リアルな恋愛ドラマ
高校生の青春と恋愛を描いた作品は数多く作られていますが、この作品におけるドラマの温度感はアニメとしてはかなり異質なものとなっています。
というのも、登場人物の関係性が非常に繊細で、常に揺れ動きながら前に進んでいるからです。
つまりこの作品は、アニメというよりドラマなのですよね。少し手直しするだけで実写ドラマとしても成立してしまいます。
中心となるのは乃絵に振り回される眞一郎の日常。しかしその下にはさらに巨大な流れである眞一郎と比呂美の恋愛があります。
眞一郎の親友である三代吉と幼馴染の愛子、そして眞一郎を含めた三角関係もあり、昼ドラ的な人間関係が構築されていますね。
眞一郎は比呂美が好きだったのですが、ちょっとしたすれ違いから乃絵と付き合うことになります。そこに乃絵の兄も絡んできて、人間関係がこじれていく様は非常にリアリティのあるものとなっています。
複雑なドラマですが、そこまでドロドロではありません。年頃の高校生らしい未熟さもまた表現されていて、繊細で甘酸っぱく爽やかな青春を感じることができます。天才的なバランスです。
湯浅比呂美の魅力
比呂美のヒロイン力は他のアニメと比べても図抜けています。
眞一郎を自分のものにしてやるという凄まじい執念を感じます。もうお前のもので良いよ、と言いたくなるほどです。
ライバルに面と向かって「私たちのことはそっとしておいて」と泣きながら言うヒロインがどこにいるのでしょうか。
腹黒いと言いましょうか、計算高いと言いましょうか、裏のある人物として描かれており、彼女のキャラクターを知った上で一挙手一投足を見ていきますと、何から何まで狙ってやっているように思えて仕方がありません。それも全て眞一郎のためにしていることですから、恐ろしいです。
第8話の終わりから第9話の始め、雪が降る夜に比呂美が乃絵の兄と共にバイクの事故を起こしてしまったことが、比呂美と眞一郎の関係を近づけるきっかけになりますが、その事故すらも狙っていたかもしれません。利用できるものは全て利用する徹底ぶりです。
また、眞一郎と幼馴染であるにも関わらず勝ってしまうのですから、ヒロインとしての格が違います。
女と女のバトル
true tearsでは時に女同士の衝突が描かれます。
女同士と言いましても、ほとんどは比呂美と乃絵の対決です。
第7話、学校のグラウンド階段で比呂美と乃絵が取っ組み合いの喧嘩をする場面は、大迫力です。
また先ほども述べましたが、第12話の祭りの場面では、眞一郎を争う直接のライバルの乃絵に面と向かって自分がヒロインであることを言い放ちます。涙も流します。これに対して乃絵は比呂美の涙を綺麗だと言います。事実上の敗北宣言でしょう。
さらにもう一つの女の戦いがこの作品では描かれています。それが眞一郎の母と比呂美です。
眞一郎の母は何かと比呂美にキツく当たっており、比呂美はそのせいか委縮している様子でした。眞一郎の目にも余るほどです。
二人の関係がギクシャクしている大きな原因は母が過去に、眞一郎と比呂美が腹違いの兄妹である、ということを比呂美に言ったことでした。
そのことを気にして比呂美は眞一郎への気持ちを抑えてしまいます。これがなければもっと早く眞一郎とくっついていたかもしれません。
結局のところ兄妹であることは嘘であり、そのことで眞一郎の母も比呂美に謝罪しています。
女としての勘なのか比呂美の想いを敏感に察しており、物語の終盤では良き理解者となります。最終話の「待つのって、体力要るのよね」というセリフには痺れますね。
険悪な関係から仲の良い嫁と姑の関係に持ち込んだと見れば、比呂美の圧勝ですね。
ヒロインはどっちなの?
第1話の最初に映るのが比呂美です。主人公の眞一郎を差し置いて先に登場している以上、作中で最も重要なキャラクターであることが分かるでしょう。
しかしボーイミーツガールとして見れば、乃絵がヒロインと言うこともできますね。木の上から降ってきましたから、まさに「空から女の子が!」ですね。
ではどちらがヒロインと言えるのでしょうか。
逃げかもしれませんが、どちらもヒロインと言って良いでしょう。
ただし役割が違います。
比呂美の役割は眞一郎の恋人になること。そして乃絵の役割は眞一郎を成長させることです。
紆余曲折はありましたが、結局は一貫して眞一郎は比呂美のことが好きでした。比呂美と兄妹であるということを知り、諦めていたところで乃絵と付き合うことになりましたから、ある意味で妥協したと見ることもできます。
しかし乃絵が完全な邪魔者かと言えばそうではありません。
それは乃絵は若さゆえに素直になれない二人を成長させる役割を果たしていたからです。
乃絵がいなければ、眞一郎と比呂美は関係がこじれたままになっていたかもしれません。また、それぞれの人としての成長もなかったかもしれません。
乃絵が膠着した人間関係を良くも悪くも引っかき回したことで、それぞれが悩み苦しみました。多感な高校生には時にそういった悩みを抱えることも必要です。涙を流すほど苦しんだおかげで人としての成長があります。
最終回のエピローグが非常に爽やかに感じるのは、人間関係が整理されただけでなく、このような成長があったからでしょう。
つまり、比呂美も乃絵も必要不可欠なヒロインであり、それぞれが役割を果たしていました。
そういえばもう一人いましたが、ほとんど空気でしたね……。下手に眞一郎に絡んでいたら、比呂美の毒牙にかかっていたかもしれませんから、良かったのかもしれません。
ちなみに筆者は圧倒的に比呂美派です。好きなヒロインでは三本の指に入ります。乃絵派の方がいらっしゃったらごめんなさい。
まとめ
このように「true tears」は人間の繊細な心を描き切った傑作です。
ラブコメとは一線を画す、正統派の恋愛を体験することができます。
この先も語り継がれるべき作品です
P.A.WORKSの最高傑作のみならず、アニメ全体としても傑作で間違いないでしょう。
以上!
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